「知の巨人」

 「知の巨人」ってば二人いる。吉本隆明立花隆

 俺の記憶が正しけりゃ、吉本が言われ出したのは1980年代後半頃から。娘が売れ出した頃。

 初めて聞いたのは、ポンコツ車のカーラジオ。田舎も流すラジオ東京のディスクジョッキーで、若山弦蔵だかが言った。そういやその頃は、「どこか柄本明に似てます」なんておちょくってた『文春』週刊誌まで、そう言い出した。東京村だね。立花隆が言われ出したのは、もうちょいあとだったか。

 吉本もひえでもんだと思ったはずだけど、『よせやい』とは言わなかったかな。おだてられて悪い気する奴はいねえ。時代は変わった、世の中高度化しちゃったなんて言い出した時期と一致する気はするけど、偶然じゃろ。ひとまず。

 立花隆の方は、ほんとよせやいって気がする。テクノクラートだべ。この男。脳みその構造。

 土建屋宰相の雪国親父追及の時、新聞記者はさっさと忘れるデイリーの記事つなぎ合わせて矛盾点洗い出し、金脈あぶり出したって聞いたことがある。こういう努力はする人物。切れるってばそうなんだろね。テクノクラート的に。政策作りのいい技術官僚になったべ。へそ曲げ人生なんか送らねえで、さっさと就職してりゃ。

 立花がなんでよせやいかってば、テクノクラートは、在りもの・有りもの読み込んで効果的に使うのが仕事。間違っても知なるもん掘り下げたりはしねえ。自分の身ぃ削ってまで。いわゆる思想の領域じゃねえってこと。

 経験的にゃ、東京もんのインテリは全部これ。深く深〜く考えたなんていう小林秀雄もこれ。ありもん世界の商売人。あるコードに載っかった、ありもんのみに感情移入。売るのが「知」なのか饅頭なのか。この違いだけ。東京村のフォーマット、間違っても踏み外さねえさ。

 田舎新聞に立花が、「小沢支配の鳩山政権」こき下ろす記事書いてた。ちと長いけど引用。(共同配信かも知れねえけど、気ぃ緩んだ書き方は直の原稿かも。)

 ※以下引用

 「鳩山新政権が成立した日、真夜中に始まった記者会見を見て、途中からうんざりするとともに、こりゃダメだと思った。『これは明治維新以来の革命だ』だの、『新しい歴史が切り開かれた』だの、もっともらしい美辞麗句がさかんにならべられたが、その革命の実体がさっぱり見えてこない。」
 「具体的な話ができず、理念的な答弁しかできなかったのは菅直人だけではない。…みな具体的仕事を担当する事務方の役人と事前の打ち合わせが何もできなかったから具体的な話ができないのだ。…どんな仕事も、現場の担当者との打ち合わせ抜きにいい仕事ができるわけがない。大臣になったらすぐに事務方と打ち合わせて、もっと中身のあることをしゃべるべきだった。…官僚は行政のプロであり、行政組織とは官僚の集まりそのものなのである。…官僚の長(総理大臣)が脱官僚をいうなど大まちがいだ。」
 「議員の(マニュフェストを作った)党官僚への過度の依存は党官僚組織を強大化し、かつてのスターリンのような党書記長職の権力を一方的に高めてしまう。これはキケンだ。」
 「民主党の場合、スターリン的な党組織の専制政治化がすでにもたらされているのではないか。この場合、書記長ではなく幹事長と呼ばれているが。」
 「民主党のプランによると、官僚組織の中に多数の政治家を副大臣とか政務官などの形で送り込むことになる。…そうなると、世界最強といわれた日本の官僚組織が小沢の完全なコントロール下におかれるわけだ。」
 「官僚の力をそぐために、事務次官など官僚組織のトップが独自の記者会見をすることが禁止された。官僚の情報発信力を奪ってしまうわけだ。官僚組織のトップたちの集まりであった事務次官会議もつい最近廃止された。官僚たちの内部的自己調整機能を奪うわけだ」
 「事務次官会議を仕切るのは事務方の官房副長官で、影の総理と呼ばれてきた。麻生政権最後の官房副長官は元警察庁長官漆間巌で、彼は、民主党代表だった小沢の西松建設からの献金問題が起きたとき「この事件は自民党には波及しない」とイレギュラー発言をしたことで、民主党(つまりは小沢一郎)の怒りをかっていた。今回事務次官会議廃止でクビを取られたのもそのせいだろうといわれている。」
 「これからは民主党の政治家たちはみな小沢の影響下におかれざるをえないし、日本の官僚組織のすべても小沢の意向を気にしながら決めていくことになるだろう。…そんな世の中になったらたまらんなと思う。一見清新な鳩山政権の誕生も素直には喜べない。」


 長々引用したが、ここにあるのは「アンシャン・レジーム」の臭いだけ。延々この国に流れてきた、あるコードに載っかるところのね。

 前もどっかで言ったけど、小沢なら安心なんてこれっぽっちも思っちゃいねえ。土建屋宰相の雪国親父が正しかったなんて、これっぽっちも思わねえのと同様に。

 どん詰まりの時代に大事なのは、ありものの順列組み合わせじゃねえ、自前の感性経験・体当たりでつかんだもの。自分の身から絞り出したもの。

 雪国親父にあって、同郷安吾にあって、吉本に部分的にあって、小沢にも多分だけど部分的にあって、立花に、東京仕様の市民インテリ共に一様にねえもの。それがこれ。

 立花は上記文中で言ってる。「政治家にとって一義的に重要なのは、自立心であり、自分の考えを持つことだ」。

 だったらイラつかねえことだね。相手が相談に来なくても。新聞・マスコミ含むテクノクラートの皆さんのところに。

 小沢んとこだって、それぐらいで見てるよ。首から下の人民は。とりあえず変えてみるべ。お利口小利口へのおすがり、ひとまず止めて。