清教徒でいいさ

 俺の田舎は、老人医療費が全国一かからないらしい。長寿の地域とも言われる。

 生命保険や損害保険なんかも、一番の黒字地域じゃないかな。保険会社にとっちゃ。

 俺はこういう田舎が嫌だった。今も嫌と思うことはある。権威に弱い真面目さというのはあるからだ。人目が気になってズルができない。

 だがしかし、それだけじゃこの手のデータは生まれない。人の見てねえ所じゃ平気でズルする気質からは、この種の結果は生まれない。

 俺はこの土地の農民達が好きだ。俺もその出だが。彼らは朝早く起きる。真面目に働く。いい作物を作る。商売が下手と馬鹿にされる。いいから持ってけや。そう言ってものをくれる。野菜だの果物だの。

 彼らは概ね保守だ。政治的には。別に頼っている訳ではない。それほど気にもしないのだ。変に反骨の土地の方が、付き合いにくい者達は多い。

 振り返れば、俺はこの種の気質はたっぷりと受け継いで来た気がする。手が抜けない。言われもしないことをやる。人目が気にならないといえば嘘になるが、そんなもの関係無しに掘るべき(と感じた)ところは徹底的に掘る。だから金にならない。ならないばかりか損をする。損だけじゃ済まずに、仕事を無くす。商売が下手と馬鹿にされる…。

 子供たちもそれは変わらなかった。上の子も下の子も、勉強はよくした。塾のたぐいにゃ一度も行かず(行けず)に。貧乏人や田舎もんにゃもう無理といわれた超難関とやらに行った。行ってみたかった―というより自分を試してみたかったんだろう。そしてさっさと降りた。レールの上の人生は。色々悩んだと思うが。親のあずかり知らねえ所で。お陰で俺も、その種の場所や居住者達が一体なんぼのもんか、改めて確認できた。

 今じゃ二人とも子供を抱え、そんじょそこらの人生を歩いている。幸い、親ほど極貧にゃならねえようだが。

 俺は好きだ。自分で自分に指示する奴が。人の見てねえところで汗する奴が。大事と気持ちが感じたらそうする奴が。

 俺も死ぬまでそうするさ。今も残る見栄体裁のたぐいドブに捨てて。すけべ根性ドブに捨てて。商売下手と笑われても。人生あれもこれもは無理。じっくりじんわりわが身に聴きながら、死ぬまでやってくだけのこと。



 共鳴共感、義理人情、人の並立、人民民主の共和制万歳。一人ひとりに根を置くインターナショナリズム万歳。