雪かきあとのひとり言 ―ブログじゃ前に言ったっけ―

 後付けの観念に寄りかからない。生きる中で養われた感性を裏切らない。こういう者は都市にもいる。若い頃の吉本隆明なんかその一人だった。職人気質の家に育った下町のあんちゃん。

 俺の大阪時代の師匠も東京の、印刷工場などがある下町の出だった。偏屈で、歯に衣着せぬためエリート臭のサラリーマンには嫌われていたが、仕事は正直・真っ当だった。タコ部屋同然の職場の下請け、孫請け、アルバイトには慕われていた。

 前にも書いた作詞家の松本隆。彼なんかは都会のぼんぼんの落ちこぼれだろう。落ちこぼれの目にゃ、この国の社会の仕様・人間模様がよく見える。「♪木綿のハンカチーフ」なんてね。

 吉本で思い出した。「共同幻想」と彼が言ったのは二十代の頃だろう。もう少し歳を食えばこう言ったんじゃないか。「暗黙の打算」と。人なんてもんは大概、どっかで気が付いていてそうする。

 なので、説得だの啓蒙だのは意味をなさない。他人の「無知」に腹を立てるなんで愚の骨頂だ。

 「おう、そうだ! おらもそう思う」。そう言わしめるものは、啓蒙などとは別の所にあると俺は思っている。