何かに自分を重ねねえ人生

 何かに自分を重ねねえ人生。こいつは大事さ。

 アジア人ってのは、こいつができねえ。とりわけ中国、朝鮮、日本の儒教圏ってことかも知れねえが。

 独立自尊なんて、口先気の利いたことぬかした福沢も、中国、朝鮮に対しちゃまるで国家に自分を重ねてもの言った。人民忘れた建前・体面・自大主義。ネットにゃよくいる、右翼気取りのサル達とどこが変るんだい?

 昔、三島由紀夫が面白れえこと言った。三派全学連シンパ、反体制気取りの頃の野坂昭如のことを。

 「あの人は色々言うけど、ある時すうっと上昇しちゃうとこがある」

 あんたにゃ言われたくねえってとこあるけど、こいつは慧眼だった。

 前にも言ったことあるが、田舎へ帰って食い詰めた頃。孫請けフリーターで、田舎放送の中継の生カメやったことがあった。その頃野坂は、雪国の土建屋親父の対抗馬で衆院選に出馬した。「知性」に人気とかの吉永小百合も、応援演説に来た。その敗戦の弁の中継に駆り出された時のこと。

 雪国の田舎新聞の記者が、勇気振り絞ったんだろ。野坂に聞いた。

 「あなたは東京からやってきて、土建屋宰相批判の弁をふるった。でもまたすぐ帰っちゃうあなたに、土地の人達の気持ちがどこまで分かるんでしょうか?」

 野坂は烈火のごとく怒って記者を怒鳴りつけ、ほかは沈黙。生カメ覗く俺のはらわたは煮えくり返った。生カメ投げつけエセ野郎と怒鳴る根性は、無かった。記者の所属の田舎新聞は俺の記憶じゃ、破れかぶれの正直者・坂口安吾の兄がかつて経営した新聞屋。

 東京ってのは、全部野坂。三島含めて。上っ面の上澄みにすうっと昇る。都合悪くなりゃ。土壇場になりゃ。事が本音にひっかかりゃ。田舎はダシ。参勤交代の武家根性。

 この手の性根の根深けえ温床の一つは、中央集権ピラミッド。こいつとイコールで成り立つ明治伝来、偏差値教育制度にあるのは明らかだ。やってもやっても「お前は駄目」。馬鹿センセイや低脳世襲のぼんぼん親父が、いつまで経っても威張り腐れる、内向き閉鎖の減点法。民官こき混ぜ世を覆う、銭金エセ権威が担保の官僚制、実体のピラミッド。こいつ支える幻想のピラミッド。

 偏差値、ガク力なんぼのもんじゃい。こいつ腹の底から言う人生、一体どこにありや。洗脳、マインドコントロールって言うけどね。こいつが究極のマインドコントロールと実人生の中、骨の髄まで実感した父ちゃん母ちゃん、いい歳こいた爺婆含め、一体何人ありや。

 人の並立。口じゃ言うが、これほど難しいものはねえ。百年一日、内向き閉鎖、糞マインドコントロールのこの国の娑婆じゃ。

 腕組んで評論する。人見下す(見上げる)。この手からの脱却は観念の問題じゃねえ。実人生の問題だ。ネジ一つ、ピン一つだっていい。人生の中で俺が作ったと、ほんとに言えるかどうかの問題だ。真っ当な人の進歩の問題なのだ。

 何かに自分を重ねねえ。重ねねえ自分に何がある。こいつ実感すりゃ、怖いもん無しさ。