沈黙の世界

 先日、白黒のちょんまげドラマ見た。四十年以上前のもんだべ。新撰組の話。

 面白かった。このドラマじゃなかったと思うが、面白れえなと思って見たテレビ時代劇は、その頃はあった。

 実存ってもんに触れてる。生きるってのはそんなもんだべって話。

 筋書きだけなら、その程度のもんは今もあるだろ。

 何違うかってば、ひとつは多分役者の差。当人なりに切実なもんあるなって感じはした。役者の実人生にどっか触れるところの。

 現場にも、その種の者はいたんだろ。サラリーマン、下請け性根のプロ面と違うところの。

 表現めざすねばりってのが、まだあった頃だべ。筋や技法の上っ面じゃねえところで。同じ筋書き、同じせりふもずい分違ってくる。こいつがあるかねえかで。

 国営放送のちょんまげドラマなんか全部が全部、見てくれ、説教、筋書きだけ。高けえゼニかけて。

 ちょんまげ物は、基本的にクソと俺は思ってる。実人生遊離の権力志向、支配者共の幻想、宣伝、自己満足に過ぎねえからだ。

 こいつにリアリティ、面白れえなって感じ与えるのはただ一点。その場にそうして生まれちまった者の実存。俺はこうして生きるしか無かったな…。

 こいつは微妙だ。ちょっと踏み違えただけで、ただの言い訳、横暴、正当化。

 そういうとこも臭ったが、面白かった。白黒ドラマのちょんまげ物。青春の、愚かにならざるを得ねえ者達の気持ちのリアリティが、どこかにおったからだろ。

 俺は俺。俺はこうして死んで行く。そういう人生もあったべと見ることはできた。そいつなりの人生描こうと、演じようとしたからだろ。わが身に尋ねる糸持ちながら。

 沈黙に耐える者達が、多分まだいた頃。自分見る暗さに。