朝っぱらのひとり言

 今年の死ぬほどの暑さで思い出した。餓鬼の頃。

 休みん時ゃ毎朝、毎昼、毎夕、裏山の沢を登った。チョウチョ採り。小一から中学まで。時間で種類が違うのだ。採れるチョウの。

 朝露の匂い、真昼は夏草の匂い、夕暮れ時の樹々のざわめき。近所にゃ同じ趣味の飢鬼は居なかった。俺はいつも独りだった。

 息潜めて感じるチョウの気配。こいつは独りの作業だ。

 今年の夏、暑さに慣れて気持ちは戻った。飢鬼の頃、未知の世界に毎度足忍ばせた自分に。

 年代もののおんぼろクーラーにゃ、真昼も手ぇ出さず。家にいる時ゃ、水飲み海塩なめてやり過ごしてる。気持ちもお陰で活性化したんだろ。「お茶と漬け物がいいだよ」とは農家の爺さん。

 暑い時期は暑い方がいいというが、そんなもん。確かに。

 人生の持ち時間なんざ、ほとんど無縁だべ。この手の感覚にゃ。