職人列伝(三) 仕事のできた人

      (初出 8/25/2006)


 その人は、仕事のできる人だった。



 東京でキャリアを積み、あちらの雑誌社の仕事を請ける彼女は初め、一人ですべてを賄わなければならない私の仕事を笑った。だが一、二度関わるうちに、飲みこんだようだった。以来、やり取りはスムーズになった。



 人には人なりのやり方がある、それぞれの座標の中で。
 彼女は、そのことを受けとめる心を備えた人だった。形が決まった仕事の中でも、絡んだ糸を自分なりに解きほぐして進む。そんな仕方をしてきたのだろう。人と自分の接点を、適切に選ぶことができた。



 彼女も一人の職人、職業人だった。だが、私がその種の仕事を遠ざかって、数年後に死んだ。「手術を受けました」。前年の便りには、そう書いてあった。私より数歳年下のはずだった。数年前に母を亡くし、姉に看取られての寂しい死だったという。

 私が失対仕事で駆けずり回ってる頃だった。