84、5年頃だったか。


 今じゃしかつめ顔してニュースやってる、あるアナ相手に仕事したことがある。俺はといえば、孫請けフリーの田舎カメラマンだった。雑多仕事の一つだった。

 そいつは当時サラリーマンだった。局アナという奴。

 「へえ、面白れえ野郎だな」


 感心したのは、そいつの集中力だ。よくいるタイプのゴマすりディレクターが何かささやいても、仕事前にゃ返事もしない。


 さあ本番となると、爆発したように喋り出すのだ。手足ばたつかせながら。話の中身もそれなりに面白かった。ばか丸出しの体当たりも、厭わねえ風があった。

 サラリーマンアナにも、こんな奴いるんか…。


 そいつの会社は東京だったが、俺にはイメージ悪かった。関西暮らしの頃、俺のいた所とある時期までネット組んでた会社だった。放送の仕方がでたらめなので、オンエア部署に直に電話すると、さっさととんずらし空っぽ。無責任でパアというのが印象だった。くっ付いてきたディレクターは、まるでイメージ通りだった。


 アナの方は、寿司屋の息子と言ってたような。サラリーマンの息子にゃ、あり得ねえタイプ。得意技はプロレス中継とか。

 
 その後いつしかフリーに。今じゃ夜のニュースの原稿読み。久々見たら、鬱の顔付きさらけ出し、とって付けたようなニュースの感想。どう見てもタイプじゃねえな。


 体と口がくっついた奴は、手足ばたつかせてしゃべらなきゃ、自分の言葉は出てこねえ。要らぬ世話だが、ほんまもんの鬱にならねえうちに、辞めた方がいいんだろう。