春を感じる。真冬なのに。

 こいつはいいこと。


 俺の気持ちがあったかくなる。

 こんなこと昔は無かった。こんな時期にゃ。

 いろんなもん捨てたからだろう。

 無駄ないろんなもん。

 それなりにだけど。まだまだだけど。


 今日、まるでまだ捨てきれてねえ俺を見っけた。

 前ならめげた。他人に腹立てた。

 今だって腹立つ。短気は少しも変っちゃいねえ。




 人なんざどうだっていいぜ。

 糞なてめえ捨てることで、突破しなきゃけねえ。

 こいつはようやく、はっきりと見える。


 身も心も楽にするってこと。捨てるもんドブに捨てて。

 ゼロ地点に立つってこと。自分の。


 自分に徹する。孤独に徹する。

 そうすりゃはっきり見える。自分の坩堝。


 自分を凝縮する、その時の熱。

 こいつが本当の人の力だ。

 自力が生み出す本当の力だ。


 沈黙は大事。凝縮のための沈黙は。


 下の子はそいつを悟った。まるで早い時期に。

 上の子は、知ってながらうまくやれねえ。

 俺と同じ。無駄な力ばら撒いてる俺と。


 言葉は造形だ。

 説明じゃねえってこと。

 職人なら当たりめえ。

 分かっちゃいながら、徹せられねえ俺がいる。


 こいつは知でも、才でもねえ。

 覚悟だ。腹づもりだ。自分を無にできる奴の。

 括弧の「自分」ドブに捨てられる奴の。

 説教じゃねえ、無償の愛に触った奴の。



 いくつになろうが、爺いになろうが、糞な俺は捨てなきゃ駄目。

 捨て切れねえゆえ毒ばら撒いた愚劣な親の、わずかばかりの罪滅ぼしのために。

 腐れ切ったイエの連鎖を、いつでもどこでも性懲りも無く息吹き返す張りぼての連鎖を、永久にドブに捨てるために。


(付記)

 こいつは人を許すなんてことじゃねえ。
 それとはまるで別世界の、俺の話だ。