共和制の魂 その三  共同体は人の心

 昔、ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへってのがあった。

 ゲマインシャフト「成員が互いに感情的に融合し、全人格をもって結合する社会。血縁に基づく家族、地域に基づく集落、友愛に基づく都市など」

 ゲゼルシャフト 「成員が各自の利益的関心に基づいて、その人格の一部分をもって結合する社会。成員間の関係は表面的には親密に見えても、本質的には疎遠である。大都市・国家・会社など」(広辞苑


 ゲマインシャフトったって、あったかどうか分からねえ原始共産制社会はいざ知らず、有史以来ほとんど擬制(虚構)としてしか存在しなかったと俺は思ってる。権力者、収奪者が生まれてからは。

 全員一致の擬制、みんな一緒の和の虚構。権力戴く構造社会はいつだって、個々に対しちゃ同じ軋轢(あつれき)を生む。昔の人間だって当然分かってたさ。一致団結の嘘、心の自然・融和装う天皇制の嘘。戦前戦時下の表に出ねえ人間の歴史、つないでみな。人の社会はいつだって、親密は装いだけのゲゼルシャフトだった。

 心の融和? 和の共同体? 生身の天皇に、人としての天皇皇族にすら本気で気を配り、尊敬した権力者が今に至るまで一人でもいたか。生身の意思や感情表した天皇皇族は、必ず排除された。日本武のごとく。後醍醐、孝明のごとく。今そうされかけてる皇太子夫婦のごとく。平和なるもん口にしたら軍部に抹殺されたと、昭和の爺さん自身言ってる。

 必要なのは国家お家の虚構なのだ。どんな時も。権力者達の欲望、権威を投影するところの。神は空っぽ、ぱ〜がいい。満たすのは俺。ゲマインシャフトの虚構。

 ゲマインシャフトは故郷と一緒。追っても追っても実体のねえ蜃気楼、幻影なのだ。人の心を、トータルなものとしての肉体魂を投影するところの。

 若けえ頃は、真っ当な魂持った若けえ奴は、ころっと騙される。この虚構に。だから藻屑と消えた。魂持たねえズルしゃも達(虚構を上昇の官僚の性根)は、上っ面神持ち上げて出世した。爆弾来ねえ主計局に入りたがったべ? 銭金握る安全地帯=事務局大好きの左翼面東京人のごとく。裏で手ぇ回して軍隊入り避けたべ? それの痛みで自分の首ちょん切った三島由紀夫のごとく。

 ゲマインシャフトは実体だ。トータルな自分持つ者にとって。首から下の情念肉体持つ者にとって。人間はいつの時代も、決して断片じゃねえのだ。部分として扱われる自分への疎外感、身もだえ、怒り等々は、あって当然なのだ。それこそ未来に広がる真っ当な暮らし=トータルなものとしての人生を、真っ当に支え得る若さなのだ。

 騙されちゃいけねえぜ。いつでも生じるゲマインシャフトの虚構に。幻影はったりに。ひたすら自分信じることだ。自分の肉体魂を。熱をあったかさを。

 一人ひとりが我が内に真っ当なゲマインシャフトを、総て融合した自分を持つこと。こいつが何より大事なのだ。

 全員一致、みんな一緒の和の社会なんて、どうひっくり返したってあるわけがねえ。虚構に騙されちゃいけねえ。この手の内実・実体は、右だろうが左だろうが、嘘と打算、裏切り、上昇、蹴落とし、疎遠、冷淡が蔓延する空っぽ・腐れの組織社会なのだ。

 人の絆? 真っ当に生きる者同士の共鳴、人情さ。上っ面敵同士でも。

 共鳴共感、義理人情、人の並立、人民民主の共和制万歳。一人ひとりに根ざしたインターナショナリズム万歳。どんなにしんどくても。