黒いバスの住人達

 山崎ハコ

 http://www.youtube.com/watch?v=jRDfmkCINl0


 以前国営放送の番組で、自分の隣りでにこにこ笑う老人を指して、「この人は当時ポルポトに村民を売り渡して殺した村の責任者です」と日本語(英語だったかも)で説明する通訳の青年を見た。今も知らん顔して村に暮らす老人。

 これを見てなぜか思いだした。同じて和せずの組織社会を飛び出して数年間の記憶。

 当時は袋叩きの時代だった。傘もささずに、パンツ一丁で生身の娑婆に飛び出す者を。誇張でも何でもねえさ。

 俺の周りは総て、本当に例外無く黒いバスの住人ばかりだった。俺(私)達は勝ち残り。落ちこぼれたあんたはクズ。

 何度も言うが、ほんとにほんとに本当に、わざわざ寄りついて来てまで言う者達もいた。


 あかの他人は言うに及ばず、親・親族も、綺麗事のクリスチャン婆あも、職安の担当の女さえ、食い詰めた俺を鼻で笑った。


 みんなそろって不景気の今の時代、この手の感情や差別は、俺の周りじゃ影をひそめている。勝ったはずの自分をひけらかすほどの根拠が、俺との間合いにおいて薄れたってことだろう。俺は何も変わりゃしねえ。

 俺は、この手の者達の腹の中が何一つ変わっちゃいねえことを知っている。にこにこ笑って「ハアそうですねえ。いい天気です」。しゃべっちゃいるが。死んでも忘れねえだろう。仕打ち。

 この手の者達は時が来りゃ、また脱兎のごとく駆けだして勝ち馬にすがるだろう。乗れなかった者をあざ笑うだろう。石投げるだろう。殺しもするだろう。状況が許すと嗅ぎ取りゃ。

 死んでも忘れねえさ。子達のためにも。孫達のためにも。そんなもんだと。口にゃしねえが。



 共鳴共感、義理人情、人の並立、人民民主の共和制万歳。一人ひとりに根ざしたインターナショナリズム万歳。