母さんの歌

 『母さんの歌』というのがある。

 餓鬼の頃から俺はこの歌が好きだった。

 小学生の頃、音楽会で教師達が合唱したのを覚えている。歌声運動が尾を引く時代。

 この歌は一人ひとりに、一つひとつの孤独に語りかける。温かさの記憶を。

 作者が酷い孤独の中で書き上げたらしいことは、その後知った。

 今も存命の作者は、火のごとき気質の人物らしい。この国一番の部数が自慢のやくざまがいの新聞社が取材した時は、けんもほろろだったようだ。

 実際記事には、歌の一面を見たほんわかした記述はあったが、作者については一切触れていなかった。

 作者が今も党員かどうかは知らないが、俺の知る地べたを生きる共産党員には、ずい分実直な人がいた。

 それほど知り合う機会があった訳では無い。それでも、それぞれ別の機会に出くわした三人は三人共、そんな人物だった。いわゆる党官僚とはまるで別タイプ。どの人も一徹だが、実直で自立心探求心豊かな農民だった。生きていれば皆、七十〜八十代。

 この歌は、先年生まれた孫にしばらく歌って聴かせていたが、作者の心情に改めて触れる機会があり、止めた。痛いのだ。俺自身の心が。ささくれが。よく似た気質なのだろう。

 いずれまた歌って聴かせようと思う。自分の孤独を、人の孤独を淡々と想える時に。


 共鳴共感、義理人情、人は並立、人はそれぞれ、人は誰でも造物主の共和制へ。一人ひとりに根を置くインターナショナリズムへ。