ホトトギス

 「ホトトギス」という民話がある。

 優しい弟が病弱だかぐうたらだかの兄のため、山から毎日木の実だのウサギだのの御馳走を取ってきた。

 「あいつは、もっとずっとうまいもんを毎日食ってるに違げえねえ…」。そんな疑いを強めた兄は、ある日弟を殺して腹を切り裂いた。

 中から出てきたのは、ヒエだのアワだのの粗末なものばかり。

 やっと事情を悟った兄は嘆き悲しむホトトギスとなり、どこかに飛んで行った。


 この種の民話は、全国どこにもあるようだ。

 この話から人や社会への絶望以外のものを引き出すとしたら、次の点だ。

 どんな行為も相手よりもむしろ、わが胸に問うて行うこと。お前自身、本当にそうしたいのか―。

 この声に耳を傾ければ、少なくとも後悔は無くなる。愚かな兄に殺されても。

 その種の不幸も減るような気がする。

 蛇足だが、内心の声は意識の更に奥底から。この種の真贋を、即ち自分の真贋を問うのも、生きる上の面白さだと思っている。この歳になってようやくだが。

 この種の気持ちに足場を置けば、愚かな兄はかなりの部分どうでもよくなる。腹立ちは全て解消しないにしても。