夜明けの青色と青春 (初出 07/28/2006)


 夜明けの青色との出会いは、若さの特権だ。そう思うのは、私が歳を取ったせいだろう。



 夜明けの青色。それは、十代の終わりから二十代の初めにかけての私の記憶を呼び覚ます。あれはとうの昔に取り壊された、杉並と中野の境のアパートだった。とりとめのない話に疲れ、友と眠りにつくのは大抵、空が青みがかる頃だった。もう題名すら思い出せない本を読み疲れ、一人眠りにつくのも、牛乳配達の音が響くその時刻だった。



 「夜明けの青さが 教えてくれるだろう…」。そんな歌が流行っていたのも、あのアパートだった。大学のバリケードの中で空が白む時を迎える、その不安な心理をつづった手記をいつか読んだことがある。私はそこで朝を迎えたことはなかった。だが私を含め、その頃の青春はそこに凝縮されていたような気がする。



 不安と恐れと未来へのかすかな希望と。それは今も、白々とした夜明けを思うたびよみがえる。そして私は、もう誰も支払わなくなったその頃の付けを、今に至るまで払い続けてきたような気がする。馬鹿げたことと知りつつ。



 その時背負った青春の借財を、その時完済した者は本当にいたのだろうか。私はどこか、そんな者達への後ろめたさを抱えたまま生きてきた。そして私は、ついにまみえることのなかった彼らが支払った額に近いだけの返済は、歩みの中でしてきたのではないか―。この頃そう思うことがある。



 だが、にもかかわらず、後ろめたさの思いは消えることはない。神も亡霊も、あらゆる幻想もどぶに捨てたはずの今となっても。いくら長い時間をかけても払い切れないもの、埋めきれないもの。それが青春にはあるのだろう。私はそう思うしかない。私の子達もとうに通り過ぎてしまった、その頃に対して。