職人列伝 (二) 細工職人

(初出 8/12/2006)


 久しぶりに職人に会った。土地に伝わる細工の職人。



 にこやかに話す男だった。仕事の姿をとカメラを向けると、作業に戻る男の顔が締まった。そうでなくちゃ。饒舌なのは、親父、祖父の時代とは違う。バランス崩さなきゃいいのだ。



 長話の途中、奥さんが出てきた。明らかに不機嫌。職人の様子が変わった。「嫁さんには苦労かけてる」。正直な男だ。



 彼は、この仕事は女に向かないと言った。素材の伐り出しや、指先の力ですかね…。聞くと、そのことは否定はせず言った。「女性は、仕事の世界に浸れないですから」。



 彼もまた、職人の性を背負い込んでいる。打ち込み始めりゃ、時間も値段も暮らしもそっちのけ。「コンビニのバイトの方が得ですから…」。



 朝から晩まで一つの世界に。それも女には許されない。赤ん坊が泣けばすぐ目が覚める。子が腹を空かせば、していることはそっちのけ、早業で食べるものを作る。そんな母性に、職人の世界などたわ言。それに、妻には寂し過ぎる夫だけの世界。散々私もやり合った。



 職人だけは結婚相手に選ぶな―。そんな話を聞いたことがある。彼もどれだけやりあったか。一個五千円の日用雑器。似たものは百円ショップで買える。頑丈な親父の代のものが壊れたら、また買いに来るのだが。